筆写 ~ 芥川龍之介『杜子春』より

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ペン先がしっかりと走ること(筆勢)は、

字の魅力を引き出すにあたり

最も大切な要素だと私は考えている。

(※一律にスピードだけの問題にあらず)

同時に、字の形やバランスといった要素も

字の美しさに欠かすことはできない。

ところが、美しい表現を意識するほどに

余計な緊張と力が生じ、ペン先の走りは

悪くなり、字の魅力は損なわれていく。

だから、あくまでも、

緊張という束縛から解放された

伸びやかで自由なペンの走りを

稽古の第一とし、その繰り返しの中で

字の形やバランスを整えていく。

ここにおいて、自分の心の状態に

丁寧に向き合うことがとても重要になる。

伸びやかで自由なペンの走りを求めることは、

人によっては、それは同時に字のバランスを

欠くことへの恐れ(=緊張)ともなり得る。

この『恐れ(=緊張)』が心に生じた時に、

その状態をしっかりと認識して、

丁寧に心の修正をしていくことこそが

稽古のかなめとも言える。

そんな稽古の在り方に気づき、

そしてその道を志した私であるが、

まだまだ初心者マークなのだ。

筆写文章

朝(あした)に北海に遊び、

暮(くれ)には蒼梧(そうご)。

袖裏(しゅうり)の青蛇(せいだ)、

胆気(たんき)粗(そ)なり。

三たび岳陽(がくよう)に入れども、

人(ひと)識(し)らず。

朗吟して、飛過(ひか)す洞庭湖(どうていこ)。

  芥川龍之介『杜子春』より