筆写 ~ 夏目漱石『草枕』より

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璆鏘(きゅうそう):

 詩や歌の旋律の美しいさま

丹青(たんせい):絵具、彩色

いわゆる社会的価値とするならば、

着想は紙に落とし、

丹青は画架に向って塗抹・・・

となるのかもしれない。

一方、自分の内なる価値でよいならば、

着想は紙に落さぬとも、

丹青は画架に向って塗抹せんでも・・

ということになるのだろうか。

人間社会の中で生きていくには、

やはり社会的価値は有用なものと

なるだろう。

しかし、

社会的価値ばかりにとらわれすぎると、

胸裏に響くものも響きにくくなり、

心眼に映るものも映りにくくなって・・・

そんなことを思いながら向き合った

今回の文章だった。

筆写文章

着想を紙に落さぬとも

璆鏘(きゅうそう)の音(おん)は

胸裏(きょうり)に起(おこ)る。

丹青(たんせい)は画架(がか)に向かって

塗抹(とまつ)せんでも

五彩(ごさい)の絢爛(けんらん)は

自(おのず)から心眼(しんがん)に映る。

  夏目漱石『草枕』より