筆写 ~ 北原白秋『風隠集』より

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平仮名の連綿は

一筆で書ききっているように目に映るけれど

決してすべてがそうではない。

例えば

今回の『ほの』の部分を取り上げると、

『ほ』から連綿線を左下へ走らせて、

そこで一旦ペン先を紙面から離している。

そして『の』を書きあげやすいように

手の姿勢を整えたうえで、

先ほどの続きからペンを再び入れる。

連続的に見えるなかにも

呼吸を置いている部分が必ずある。

歌唱でも読経でも、その他でも。

完成したものを見聞きするだけでは、

分からない部分がある。

完成形だけを見てその姿を追い求め、

たくさん右往左往してきたのは、

このでんぼくである(笑)

筆写文章

水の辺の

馬酔木(あしび)の若木小さけれど

ほのかに群れて

花つけぬらし

  北原白秋『風隠集』より