筆写 ~ 上村松園『絵筆に描き残す亡びゆく美しさ』より

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感覚を知り、その感覚がなじむには、

ある程度の時間を要すると思います。

人それぞれなので、それが

どの程度の時間を要するかというのは

まったく分かりません。

けれど、

そういった時間的概念から離れ、

” 流れ ” に全てを委ねることが

できれば、感覚がなじむのは

より容易になると思っています。

感覚をなじませようとしているのに、

「感覚をなじませたい」と考え出すと、

そこにはすでに時間的概念が入り込み、

” 感覚への集中 ” の妨げに

なりかねないというのは、なかなか

苦いものです(笑)

私自身の書写稽古は

その在り方に重きを置いています。

とても一朝一夕では成りません。

ふと感覚のなじみを覚えても、

少し経って気づけば

その感覚から離れているのは

” いつものこと ” です。

だからこそ、その

” いつものこと ” を

どれだけ平然と受け止められるか。

そこに心を置くことこそが大切だと

考えています。

筆写文章

大きい振袖でしゃなりしゃなりと

歩いているその度ごとに帯が可憐に

揺れる、あの情趣が京舞妓の全生命

なんです。

 上村松園

『絵筆に描き残す亡びゆく美しさ』より