筆写 ~ 長谷川時雨『佃のわたし』より

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私の筆写においては

力を抜いて書くということを

最も大切にしていますが、

さらに言うと

『力を抜いた状態に安んずる』

という感覚を育んでいます。

それは、

力を抜いた状態が最も好ましい

ということを心底信頼していく、

ということです。

書している最中にどんな想念や感覚が

やってきても構わないのです。

その時にはまた言い聞かせるだけです。

『力を抜いた状態に安んずる』と。

筆写文章

暗(やみ)の夜更(よふけ)に

ひとりかへる渡し船、

殘月(ざんげつ)のあしたに

渡る夏の朝、雪の日、

暴風雨(あらし)の日、

風趣(おもむき)はあつても

はなしはない。

  長谷川時雨『佃のわたし』より