筆写 ~ 薄田泣菫『利休と遠州』より

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利休の評価に値しなかった

ひとつの茶器(茶入)。

利休の口から賞め言(褒め言)が得られるのを

期待していたその持ち主は、

ゆえにその茶器を叩き割る。

その破片を譲り受けた茶人は

茶器を復元するが、誰の目にも

素人のお粗末な継ぎはぎ。

そんな茶器に再び出会う利休だが、

「これでこそ、結構至極ぢや・・・」

こんな一言が利休の口から発せられる。

利休が賞めた(褒めた)茶器との噂が広まり、

その値打と評判をますます上げながら

茶器はその後多くの人の手を渡り続けた。

時は経ち

利休の流れを汲む茶人 遠州 が

彼の死後、あの世で会った利休に

事の真意を確かめてみると・・・

なんだか、慎重さが大きくなって、

若干こわごわとした心持ちで

書きあげてしまった一枚。

基本、このブログにUPすることを

目的にしている筆写でもあるので、

複数枚を書き続けて

心地よく書ききれた1枚が

なかなか出てこないと、

微妙な焦燥感が出てしまう(笑)

個人的には、こういった感覚のもとでは

良い筆写からは遠ざかる。

しかし、

そんな感覚で書いた一枚として

こうして記録に残していくことも、

自身にとってなかなか面白い。

筆写文章

わしが賞(ほ)めたのは、

千金にも代へ難いその誇りと執着とを、

茶器とともに叩き割った持主の

ほがらかな心の持ち方ぢや。

  薄田泣菫(すすきだ きゅうきん)

  『利休と遠州』より